著作者人格権を行使しない、とはどういう意味?
更新日:9月16日
結論からいうと、「著作者人格権を行使しない」とは、作品を作った人が持つ「名前をどう表示するか」「勝手に内容を変えられないようにする」といった人格的な権利について、契約で決めた範囲では異議を述べないと約束することです。
著作者人格権そのものを相手に渡すことではありません。
著作者人格権は、著作者本人に残ります。
そのうえで、
契約で認めた編集・変更・利用について、著作者人格権を理由に止めたり、異議を述べたりしない
と約束するのが、一般に「著作者人格権を行使しない」という条項です。
たとえば、映画制作で脚本を書いてもらった場合。
撮影時には、
セリフを短くする
シーンを削る
順番を変える
ロケ地に合わせて内容を変更する
ことがあります。
脚本家には、自分の作品を意に反して改変されない権利があります。
そこで契約で、
映画制作に必要な範囲では改稿できる その範囲について著作者人格権を行使しない
と整理しておくことがあります。
つまり、「著作者人格権をなくす」のではなく、「この範囲ではその権利を使って止めない」と決めるものです。
ただし、何をしても自由になる条項ではありません。
この記事で分かること
著作者人格権とは何か
「行使しない」とは具体的にどういう意味か
著作権譲渡との違い
映画制作でなぜ必要になるのか
脚本・音楽・イラストではどう使うのか
「一切行使しない」と書けば十分なのか
契約では何を決めればいいのか
そもそも著作者人格権って何?
著作者人格権は、著作者の人格的な利益を守るための権利です。
著作権法では、大きく、
公表権
氏名表示権
同一性保持権
があります。文化庁もこの3つを著作者人格権として整理しています。
公表権
まだ公表されていない作品について、公表するかどうか、いつ、どのように公表するかを決める権利です。
氏名表示権
作品を公表するときに、著作者名を表示するかどうか、表示するなら本名・ペンネームなど、どの名前にするかを決める権利です。
同一性保持権
著作者の意に反して、作品の内容や題号を勝手に変更・削除されない権利です。
映画制作で特に問題になりやすいのは、この氏名表示権と同一性保持権です。
著作権を譲渡しても、著作者人格権は移らない
ここはかなり重要です。
著作権と著作者人格権は別物です。
たとえば、脚本家から制作会社へ脚本の著作権を譲渡しても、著作者人格権まで一緒に制作会社へ移るわけではありません。
著作者人格権は、著作者本人に専属する権利だからです。
そのため、
著作権を全部譲ってもらったから、作品は好きに変更できる。
とは限りません。
制作側が著作権を持っていても、著作者人格権との関係は別に考える必要があります。
では「行使しない」とは何を約束するの?
著作者人格権そのものを制作会社へ譲ることはできません。
そこで契約では、
著作者人格権を行使しない。
という約束を入れることがあります。
これは簡単にいうと、
権利は著作者に残す。
でも、契約で認めた利用については、その権利を使って制作を止めない。
ということです。
たとえば脚本なら、
撮影のためにセリフを短くすることを認めます。
音楽なら、
映像の尺に合わせて曲を短くすることを認めます。
イラストなら、
宣伝用にトリミングやサイズ変更することを認めます。
といった利用を契約で決めます。
そのうえで、そうした変更について著作者人格権を行使しない、と整理します。
映画制作ではなぜ必要になる?
映画制作では、依頼した制作物を納品された状態のまま使えるとは限りません。
むしろ、完成までに変更することの方が多いです。
たとえば脚本なら、
セリフを変更する
シーンを削る
順番を変える
ロケ地に合わせて設定を変える
尺に合わせて短くする
ことがあります。
音楽なら、
曲の一部だけ使う
尺に合わせて短くする
フェードイン・フェードアウトする
一部を繰り返す
ことがあります。
イラストやデザインなら、
トリミング
リサイズ
色調整
文字の追加
縦横比の変更
をすることがあります。
そのため、映画制作では、
どこまで変更してよいのか
と、
その変更について著作者人格権を行使しないこと
をセットで考えておくと、後から扱いやすくなります。
脚本ならどう考える?
脚本は、撮影現場でかなり変更が起こりやすい制作物です。
たとえば、
この場所だと、このセリフは不自然だ。
撮影時間が足りないので、このシーンを削りたい。
俳優の芝居に合わせて言い回しを変えたい。
ということがあります。
そのたびに、
この一文字を変えていいですか?
と確認しなければならない契約では、制作が進みにくくなります。
そこで、
本作品の制作に必要な範囲で改稿できること
を契約で認めてもらい、
その範囲について著作者人格権を行使しない
と整理する方法があります。
ただし、
脚本を自由に別作品へ作り替えていい。
という意味ではありません。
どの作品のための、どの範囲の変更なのかを考えます。
音楽ならどう考える?
映画では、納品された曲を最初から最後までそのまま使うとは限りません。
たとえば、
3分の曲を30秒だけ使う
前半だけ使う
シーンに合わせて途中でフェードアウトする
一部分をループする
といった編集があります。
こうした使い方を予定しているなら、曲をどの程度編集してよいのかを利用条件として決めておいた方が分かりやすくなります。
そのうえで、認めた編集について著作者人格権を行使しない、と整理します。
イラストやデザインならどう考える?
映画ポスターやSNS宣伝では、一つのデザインを複数の媒体へ展開することがあります。
たとえば、
ポスター用の縦長
SNS用の正方形
Webバナー用の横長
配信サービス用のサムネイル
です。
同じデザインでも、媒体ごとに、
トリミング
サイズ変更
文字位置の変更
色味の調整
が必要になることがあります。
そのため、宣伝に必要な範囲で加工できることを契約で決めておくと扱いやすくなります。
氏名表示権も著作者人格権に含まれる
著作者人格権は、改変だけの問題ではありません。
著作者には、名前を表示するかどうか、表示するとすればどの名前にするかを決める氏名表示権があります。
たとえば、
本名で表示する
ペンネームで表示する
作品によっては名前を表示しない
といったことです。
そのため、「著作者人格権を行使しない」とだけ書いて終わるより、
クレジットをどう表示するのかは別に具体的に決めておく
方が分かりやすいです。
「行使しない」と書けば何をしてもいい?
いいえ。
著作者人格権を行使しない条項があるからといって、契約と関係のない使い方まで自由になるわけではありません。
たとえば、
映画制作のための利用だと説明していたのに、全く別の商品広告へ使う
必要な編集の範囲を超えて、大きく作品の意味を変える
著作者の名誉や声望を害するような利用をする
といった場合まで、当然に問題がなくなるとはいえません。
だから契約では、誰に対して何の作品についてどんな利用のためにどの範囲で著作者人格権を行使しないのかを整理しておく方がいいです。
「一切行使しない」と書けば十分?
契約書では、
著作者人格権を一切行使しない。
という条項を見かけることがあります。
ただ、制作側が本当に必要としているのは、
本編編集
改稿
尺調整
トリミング
再編集
宣伝利用
など、具体的な利用です。
そのため、単に、
一切行使しない。
とだけ書くより、
どの利用について行使しないのかが分かるようにする
方が、契約内容として整理しやすくなります。
契約ではどう書けばいい?
たとえば、
制作者は、制作会社および制作会社から本制作物の利用について正当に権利を得た第三者に対し、本作品の制作、編集、上映、配信、宣伝その他本作品の利用に必要な範囲で、本制作物について著作者人格権を行使しない。
という形が考えられます。
ただし、これをそのまま全部の契約に入れるのではありません。
実際には、
脚本
音楽
イラスト
デザイン
映像
など、制作物と予定している利用方法に合わせて調整します。
第三者にも行使しないようにする?
映画は、制作会社だけで利用するとは限りません。
完成後に、
配給会社
配信事業者
宣伝会社
放送事業者
などが作品を扱うことがあります。
そのため、制作会社に対してだけ著作者人格権を行使しない契約だと、作品の展開によっては足りないことがあります。
必要に応じて、制作会社から適法に権利を得た第三者に対しても行使しないという形を検討します。
利用許諾だけの場合にも関係する
著作者人格権の不行使条項は、著作権を譲渡するときだけの話ではありません。
著作権は制作者に残して、
この映画では使っていいですよ。
という利用許諾にする場合もあります。
その場合でも、
改稿
尺変更
トリミング
再編集
などを予定しているなら、著作者人格権との関係を考える必要があります。
つまり、
著作権を誰が持つか
と、
作品をどこまで変更できるか
は別の問題です。
法人へ依頼した場合も確認する
制作物を会社へ発注した場合、
相手が法人だから、著作者人格権は気にしなくていい。
とは限りません。
実際にその制作物を誰が著作したのかによって、権利関係は変わります。
会社自身が著作者になる場合もあれば、個人クリエイターが著作者になる場合もあります。
外注先がさらに個人へ制作を依頼しているなら、制作会社まで必要な権利処理ができているのかを確認することがあります。
実際にはどう整理する?
まず、制作物をどう使うのかを考えます。
たとえば脚本なら、
改稿するのか
シーンを削るのか
続編などにも使うのか
音楽なら、
尺を変えるのか
一部だけ使うのか
宣伝にも使うのか
イラストなら、
トリミングするのか
色を変えるのか
SNSにも使うのか
を考えます。
そのうえで、
1.利用方法を決める
2.必要な編集・加工を認めてもらう
3.その範囲について著作者人格権を行使しないことを決める
4.クレジット表記を別に決める
という順番で整理すると分かりやすくなります。
結局、「著作者人格権を行使しない」は何のため?
一言でいうと、契約で予定している制作・編集・利用を、あとから著作者人格権を理由に止められないように整理するためです。
たとえば、
脚本:撮影に必要な改稿をする
音楽:映像の尺に合わせて短くする
イラスト・デザイン:宣伝媒体に合わせてトリミングやサイズ変更をする
映像:完成後に再編集や別尺版を作る
といった場面です。
著作者から権利を取り上げるための条項ではありません。
作品をどう使うのかを先に決め、その利用に必要な範囲で権利関係を整理するための条項と考えると分かりやすいでしょう。
まとめ
「著作者人格権を行使しない」とは、著作者人格権を譲渡することではなく、契約で認めた利用について、その権利を使って異議を述べないと約束することです。
著作者人格権は著作者本人に残ります。
そのため、
著作権を譲渡しても著作者人格権は移らない
編集・加工できる範囲を別に決める
その範囲について不行使を定める
クレジット表記も具体的に決める
「一切行使しない」と書けば何でも自由になるわけではない
という点を押さえておく必要があります。
映画制作では、完成までに脚本・音楽・イラスト・映像などを変更する場面があります。
だからこそ、何を変更してよいのかを先に決め、その範囲について著作者人格権を行使しないと整理しておくことが大切です。
参考
※映画・動画制作の契約で著作者人格権の不行使条項について個別にご相談が必要な場合は、お問い合わせページをご利用ください。
