ホラー・虐待シーンを撮りたい|俳優のメンタルケアと撮影時の配慮
ホラー、虐待、暴力、死、自殺などを扱う作品では、画面上の安全だけでなく、出演者の心理的な負担も撮影設計に入れておくことが大切です。
これは子役だけの話ではありません。
成人の俳優でも、
激しく怒鳴られる
何度も泣く
暴力を受ける役を繰り返す
凄惨な特殊メイクや死体を見る
強い恐怖や喪失を長時間演じる
といった撮影が続けば、負担になることがあります。
だからといって、ホラーや凄惨な場面を弱くするという話ではありません。
必要な画を撮りながら、俳優に本物の恐怖や苦痛まで経験させないように配慮する。
そのために、説明、撮り方、現場での声かけ、撮影後の切り替えまで考えておきます。
この記事で分かること
どんな撮影で心理的な負担を考えた方がよいか
撮影前に出演者へ何を伝えるか
ホラーや虐待シーンをどう設計するか
撮影中に無理をさせないためにできること
子役・未成年では何に注意するか
撮影後のメンタルケアをどう考えるか
必要な画と、出演者への配慮は両立できる
怖い作品を撮るなら、怖い画が必要です。
虐待を描くなら、観客が「つらい」と感じる場面が必要なこともあります。
その表現自体を避けてしまえば、作品が成立しないこともあります。
ただし、観客を怖がらせることと、俳優本人を本当に怖がらせることは別です。
たとえば殴られる場面なら、本当に殴る必要はありません。
カメラアングル
リアクション
効果音
カット割り
特殊メイク
VFX
を組み合わせれば、実際には接触していなくても強い暴力に見せられます。
凄惨な場面も同じです。
死体、傷、血、切断などをすべて俳優本人の目の前で完成させる必要がないカットなら、
ダミー
特殊造形
インサート
別撮り
編集
で分けることもできます。
出演者に負担をかけることと、強い映像を作ることを同じにしないのが基本です。
撮影前に「何をされるのか」が分かるようにする
心理的な負担が大きそうなシーンでは、撮影前の説明が重要です。
単に、
暴力シーンがあります。
ではなく、
相手役から大声で怒鳴られます。
首をつかまれているように見える芝居をしますが、実際には力をかけません。
顔に血糊を付けます。
横にかなりリアルな死体のダミーを置きます。
というように、現場で実際に何が起こるのかを伝えます。
本人に苦手な表現や避けたいことがあるなら、事前に確認しておくこともできます。
このとき、過去の体験や「なぜ苦手なのか」まで話してもらう必要はありません。
これは難しい
これは事前に知らせてほしい
ここまでは大丈夫
という範囲が分かれば、撮影方法を考えられます。
内容が当初の説明から大きく変わった場合も、その場で当然のように追加せず、改めて確認します。
撮影中は「止められる」状態を作る
心理的負担の大きい撮影ほど、
途中で止めてもいいと言われていること
と、
実際に止められる雰囲気があること
は別です。
監督やスタッフが、
もう一回だけ。
ここまで準備したんだから。
プロなんだから大丈夫でしょ。
という空気を作ってしまえば、出演者は言い出しにくくなります。
そこで、負担の大きいシーンでは、
無理があれば誰に伝えるのか決める
撮影前に動きや流れを確認する
テイクを重ねる理由を共有する
必要のない反復を減らす
途中で休憩を入れる
内容によっては必要なスタッフだけで撮る
など、本人が状況を把握できる現場にしておきます。
特に泣く芝居や強い恐怖を演じる場面は、何度も同じ感情を要求すればいいとは限りません。
必要なアップ、リアクション、音声などを整理して、どのカットでその演技が本当に必要なのかを考えるだけでも負担を減らせます。
子役・未成年では「本当に怖がらせる」を撮影方法にしない
子役では、さらに慎重に考えます。
ホラー作品だからといって、子どもを実際に怖がらせて、その反応を撮ればリアルになるという方法を前提にしない方がいいでしょう。
虐待や暴力のシーンでも同じです。
たとえば、
怒鳴り声は別に撮る
相手役との距離を取る
子役がいないカットで暴力部分を撮る
リアクションだけ別撮りする
ダミーや特殊メイクを事前に見せて仕組みを説明する
撮影時には見なくてよいものを分けて撮る
といった方法があります。
怖い特殊メイクでも、作っているところを見せることで、
これはシリコンでできている
この血は血糊
この傷はメイク
と理解し、心理的な負担が軽減することがあります。
逆に、完成した凄惨な状態だけを突然見せれば、本当に怖がることもあります。
子どもの年齢や性格によって受け取り方は大きく違うので、本人と保護者に内容を説明しながら、どこまで見せるかも考える必要があります。
子役・未成年者の出演契約や撮影時間については、別記事「子役・未成年に出演してもらうときの契約は?」で詳しく解説しています。
成人の俳優でも「役者だから平気」と決めつけない
メンタルケアは子役だけの問題ではありません。
成人の俳優でも、
虐待される役
暴力を受け続ける役
自殺する役
家族を失う役
強い恐怖状態が続く役
長時間泣き続ける役
などは、精神的な負荷が大きくなることがあります。
もちろん、同じシーンでも負担の感じ方は人によって違います。
だから、
この役なら当然つらいはず。
と制作側が決めつける必要もありません。
反対に、
大人のプロの俳優だから問題ない。
と考える必要もありません。
撮影前に内容を共有して、本人から何か希望があれば撮影方法を相談できる状態にしておく。
それくらいでも現場はかなり違います。
特に、暴力や恐怖を扱うシーンでは、演技を引き出すために出演者本人の実体験を無理に掘り起こすことを前提にしないことも大切です。
どう感情を作るかは俳優自身の演技方法にも関わります。
制作側は、必要な演技と撮影条件を伝え、そのための環境を整えることに集中します。
撮影が終わった後の「切り替え」も考える
負担の大きいシーンでは、撮影が終わった瞬間に、
はい、終了です。
で終わらせない方がいいこともあります。
特に、
長時間泣いていた
強い罵声を浴び続けた
虐待や暴力を繰り返し演じた
血まみれの状態で長時間撮影した
死や喪失を扱う場面が続いた
という場合です。
難しいことをする必要はありません。
たとえば、
撮影終了をはっきり伝える
血糊や特殊メイクを落とす
衣装を着替える
普通の会話をする
現場の照明や雰囲気を戻す
少し休んでから帰る
など、「役の中」から普段の状態へ戻る時間を作ります。
子役なら、保護者と合流し、
撮影はここまで
さっきの血や傷は撮影用のもの
など、現実の場面へ戻れるように声をかけることもできます。
心理的な負担が大きかったようなら、その日の現場だけで判断せず、後から本人や保護者へ様子を確認することも考えます。
メンタルケアも撮影設計の一部として考える
俳優のメンタルケアというと、何か特別な専門対応をしなければならないように聞こえるかもしれません。
もちろん、作品や撮影内容によっては専門家の関与を考えた方がよい場合もあります。
ただ、多くの現場でまずできるのは、
事前に内容を伝える
本人のNGや希望を確認する
撮影方法を工夫する
必要以上に強い演技を繰り返させない
本人が止められる環境を作る
撮影後に切り替える時間を取る
ということです。
ホラーや虐待、凄惨な場面だからといって、必ずしも表現を弱くする必要はありません。
むしろ、どうすれば出演者に本物の恐怖や苦痛を与えず、観客にはそう見える画を作れるか。
そこまで含めて撮影方法を考えることが、制作側の仕事です。
まとめ
ホラー・虐待・暴力・死などを扱う撮影では、出演者の心理的な負担も考えておきます。
特に意識したいのは、
撮影内容を事前に具体的に説明する
苦手なことや避けたいことを確認する
本人が途中で止められる状態を作る
必要のない反復を減らす
カット割り・音・特殊メイク・VFXなどで負担を分散する
子役を本当に怖がらせて演技を引き出さない
成人の俳優でも「プロだから平気」と決めつけない
撮影後に役から切り替える時間を取る
ということです。
俳優を本当に傷つけなくても、怖い画、つらい画、凄惨な画は作れます。
必要な表現を諦めるのではなく、その画をどう安全に成立させるかまで考える。
ホラーや負担の大きいシーンでは、その撮影設計が重要です。
参考
※映画・動画制作における撮影方法や出演条件について個別にご相談が必要な場合は、お問い合わせページをご利用ください。
