撮影中に店内BGMが入ってしまった|そのまま使える?
更新日:9月6日
飲食店や美容室、ショップなどで撮影していると、店内で流れているBGMがそのまま録音されてしまうことがあります。
この場合、「音楽が入ったから必ず削除しなければならない」というわけではありません。
人物の会話や店内の様子を撮影していて、その結果としてBGMが付随的に入り込んだのであれば、著作権法上の「写り込み」に当たり、そのまま利用できる場合があります。
文化庁の令和8年度著作権テキストでも、楽曲の一部が入り込んだ映像を、付随対象著作物が含まれる例として示しています。
一方で、店内BGMを作品の演出として意図的に使った場合や、音楽が映像の中で大きな役割を持っている場合は、単なる「入り込み」とは考えにくくなります。
この記事で分かること
店内BGMが撮影中に入ったら削除する必要があるのか
音楽にも「写り込み」の考え方があること
どのような場合なら付随的な利用と考えられるのか
店内BGMを意図的に使う場合との違い
店がBGMを流す許可と、撮影した映像で使う許可は別であること
撮影後にBGMが入っていることに気づいた場合の対応
結局どうすればいいのか
音楽にも「写り込み」がある
「写り込み」というと、ポスターや絵画など、画面に映るものをイメージしやすいですが、音楽にも同じ考え方があります。
著作権法第30条の2では、写真撮影だけでなく、録音や録画などの際に、本来の対象に付随して別の著作物が入り込む場合について規定しています。
文化庁の令和8年度著作権テキストでは、録音・録画などを行う際、本来意図した対象以外の著作物が入り込む場合を、付随対象著作物の利用として説明しています。
また、楽曲の一部が入り込んだ映像を、ブログへ掲載したり、インターネットで配信したりする場合も例として示しています。
そのため、たとえば、
カフェで人物の会話を撮影したらBGMが入った
店内を歩くシーンで流れていた音楽が録音された
商店街で撮影していたら店舗から音楽が聞こえてきた
街頭スピーカーの音楽が撮影音声に入った
といったケースでは、付随対象著作物として利用できる可能性があります。
「数秒だから大丈夫」なのではない
著作権法には、5秒なら大丈夫、10秒までなら問題ないというルールがあるわけではありません。
店内BGMがそのまま使える可能性があるのは、短時間だからではなく、本来撮影しようとしていた対象に付随して音楽が入り込んだからです。
現在の著作権法では、付随対象著作物について、
映像等の中で軽微な構成部分であること
利用の目的や態様などから正当な範囲内であること
著作権者の利益を不当に害しないこと
などが問題になります。
つまり、短いかどうかだけでなく、映像の中でその音楽がどのような位置付けになっているのかを見ることになります。
会話の後ろで小さく流れている場合
たとえば、飲食店で二人の会話シーンを撮影したとします。
会話が中心で、その後ろで店内BGMが小さく聞こえている程度なら、音楽は映像の中で付随的なものと考えやすくなります。
一方、
会話がなく、音楽だけがはっきり聞こえる
楽曲のサビが長時間流れる
BGMに合わせて人物の芝居を見せている
その曲がシーンの雰囲気を作る重要な要素になっている
といった場合は、単なる「付随的な入り込み」とはいえない可能性があります。
同じ店内BGMでも、映像の中でどの程度の役割を果たしているかによって考え方が変わります。
撮影のために店に曲を流してもらったら?
ここはかなり分かりやすく線を引けます。
たとえば制作側が、「このシーン、この曲が流れている感じにしたいので、店内で流してください」と依頼して撮影した場合。
これは偶然入り込んだ音楽ではありません。
その曲を映像作品の演出として意図的に利用しているので、単なる写り込みとして考えるのは難しくなります。
同じように、
撮影用に好きな曲をスピーカーから流す
店のBGMを特定の曲へ変更してもらう
曲に合わせて芝居をする
編集時に店内BGMとして市販曲を後から入れる
といった場合も、意図的な音楽利用として権利関係を確認する必要があります。
店がBGMを流しているなら、そのまま映画にも使える?
ここは混同しやすいところです。
飲食店などが適法にBGMを流しているとしても、そのことと、その音楽が入った映像作品を制作・公開できることは別です。
店側が店舗内で音楽を流すために必要な手続きをしていたとしても、その許諾が制作会社の映画や動画での音楽利用まで当然に含んでいるわけではありません。
ただし、撮影した結果として音楽が付随的に入り込んだのであれば、先ほどの「写り込み」の規定によって利用できる可能性があります。
つまり、店が使用料を払っているから大丈夫なのではなく、映像への入り方が付随的な利用として認められるかを考える必要があります。
市販音源なので、原盤の権利もある
店内BGMとして流れているのが市販の音源であれば、その録音には作詞・作曲の著作権だけでなく、実演家やレコード製作者の著作隣接権なども関係します。
ただし、著作権法には著作隣接権についても、付随対象著作物に関する規定を準用する仕組みがあります。
そのため、市販音源だから、偶然入り込んだ場合でも必ずレコード会社へ許可を取らなければならないと単純に考える必要はありません。
一方、編集で市販音源を後からBGMとして挿入するのであれば、これは別です。
その場合は、曲の著作権だけでなく、市販音源そのものについての権利処理も必要になる可能性があります。
店内BGMがかなり大きい場合は?
問題になりやすいのは、「付随している」と言えるのか微妙なほど音楽が目立っているケースです。たとえば、
店内BGMが会話より大きい
1曲がほぼフルで聞こえる
曲名が簡単に分かるほど鮮明に録音されている
映像のかなりの部分で音楽が鳴り続けている
といった場合。
音楽が映像全体に占める割合や、再製の精度なども判断要素になるため、音楽が非常に明瞭かつ大きく使われている場合には、付随対象著作物として扱えるか慎重に考えた方がよいでしょう。
撮影後に気づいた場合は、まず実際に聞いてみる
編集に入ってから、「結構はっきり曲が入ってるな」と気づくことがあります。
その場合は、
どの程度の音量で聞こえるか
何秒・何分程度入っているか
曲が識別できる程度にはっきりしているか
会話など本来の撮影対象が中心になっているか
音楽がシーンの演出として機能していないか
を確認します。
付随的な入り込みとして利用できそうであれば、必ずしも処理する必要はありません。
一方で、かなり目立つ場合には、
音量を下げる
音声処理でBGMを弱くする
別テイクを使う
必要な環境音やセリフだけを差し替える
権利処理を検討する
といった方法があります。
撮影前にBGMを止めてもらうのも現実的
法律上、付随的なBGMまで一律に排除する必要はありません。
ただし、撮影前に簡単に止めてもらえるのであれば、最初から止めてもらうというのも制作現場では非常に現実的な選択です。
特に、
会話をきれいに録りたい
長回しをする
店内BGMがかなり大きい
有名曲が次々流れる
編集で音声処理する余裕がない
といった場合には、著作権以前に録音上の問題もあります。
「法律上使える可能性があるからそのまま撮る」ことと、「後処理を減らすために最初から止める」ことは別の話です。
避けられるものなら撮影前に避ける。撮ってしまったものは、実際の入り方を見て判断する。
店内BGMについても、この考え方が現実的です。
結局、店内BGMが入ったらどうすればいい?
撮影後にBGMが入っていることに気づいたら、まず実際の音声を確認します。
会話などの後ろに小さく入っているだけなら
人物の会話や店内の様子が撮影の中心で、音楽が背景に付随して聞こえる程度なら、付随対象著作物としてそのまま利用できる可能性があります。
この場合、音楽が入ったというだけで一律に削除する必要はありません。
音楽がかなり目立つなら
曲がはっきり識別できる
会話より音楽の方が大きい
長時間曲が流れ続ける
曲自体がシーンの雰囲気を作っている
場合は、付随的な利用といえるか慎重に確認します。
必要であれば、
音量を下げる
音声処理をする
別テイクを使う
セリフや環境音を差し替える
権利処理を検討する
といった方法があります。
撮影前なら止めてもらう
これから撮影するのであれば、BGMを簡単に止めてもらえる店なら、撮影中だけ止めてもらうのが一番簡単です。
著作権だけでなく、セリフの録音もしやすくなります。
撮影用に曲を流してもらう場合は別
制作側から特定の曲を流してほしいと依頼した場合は、偶然入り込んだ音ではありません。
この場合は、意図的な音楽利用として必要な権利処理を確認します。
市販曲を意図的に映像へ入れる場合については、別記事「市販の曲を映画や動画に使いたい|誰の許可が必要?」で詳しく解説しています。
まとめ
店内BGMについては、
撮影に付随して入った音楽なら、そのまま使える場合がある
「数秒だから大丈夫」なのではない
店がBGMを流す許可と、映像で音楽を利用する問題は別
音楽が目立つ場合は慎重に確認する
撮影前に止められるなら止めてもらうのも現実的
制作側が意図的に曲を流した場合は、通常の音楽利用として考える
という整理になります。
撮ってしまった音は実際の入り方を見る。これから撮るなら、簡単に止められるBGMは止めてもらう。
この考え方が実務上は分かりやすいでしょう。
参考
※撮影中に入り込んだ店内BGMや、映画・動画での音楽利用について確認したい場合は、こちらからお問い合わせください。
